施工例
太田市 土葺きの作業場の葺き替え工事
ご先祖様代々がご利用の作業場がリニューアルです
今回お世話になったお客様は、鎌倉時代から800年以上もの間続く名門の家柄のお宅です。古くは栃木県にある茂木の地から800年前に太田市に移り住まれて以来、現在の地にお住まいです。
多くの建物が敷地内にあり、こうした建物を改修して後世に残したいと取り組んでおられます。
土葺きの作業場屋根葺き替えて
次世代にバトンタッチ
ご先祖様からの財産を保存
太田市 M様邸
ご先祖様が残してくださった建物はできれば子孫にそのまま残してゆきた
いものです。耐震面を考慮されて早めの葺き替えを決断されました。
葺き替えによって屋根重量を72.5%軽減することができました
この物置が作られたのは何代か前の時代で、施主様もよくわからないとのこと。関東大震災をきっかけに現代工法に切り替わる前は、すべての瓦屋根が写真のような土葺きで葺かれていました。現代のように引っかけ桟が使われていないため、工事にあたっては大量の葺き泥が必要でした。
現代工法では、瓦を安定させるために泥を使うだけなので、屋根重量を72.5%減らして、約1/4にすることができました。耐震化の面でも非常に大きく貢献することができます。
土葺き行為法では、泥で瓦を固定するため大量の葺き泥が必要
現代工法では、泥は安定のために用いるだけ
下地材もすべて交換しました
瓦、葺き泥、杉皮の順に撤去してみると野地板は60mmほど間隔をあけて釘止めされていました。前回の葺き替えは昭和27年に行われたそうですが、土葺きを採用する場合は葺き泥のずれを防ぐために縦に杉皮を敷いていましたので、現在のように隙間なく野地板を施工する必要がありませんでした。
しかしながら、終戦後間もない時期に行われた工事であったためか、工事交換されたと思われる垂木は長さが足りないものもあり、途中で継ぎ足してあるものもあったため、すべて交換して新しい垂木にしました。
- 瓦撤去前
- 瓦撤去後
- 葺き泥撤去後
- 杉皮撤去後
垂木もすべて交換しました
垂木を交換することができたため、長年の間に母屋が変形したりして、不陸ができた部分は、高さを調整できました。
野地板も丈夫な12mmのものを使ったので、屋根は新築同様になりました。
今回も60年間葺き替えなくても大丈夫です!
お客様より
今回の屋根の改修は昨年の東日本大震災を契機として実施の検討を始めました。地震当時、この作業場におりましたが、本当に倒壊してしまうのではないかと心配でした。 本当に大きく揺れていたことを思い出します。
まだ、雨漏りは始まってはいなかったのですが、ご先祖様が建てられ使ってきた作業場を維持してゆくには、思い切って葺き替えて屋根を軽くした方が良いのではないかと思ったことがきっかけでした。
工事にあたっては、今年は本当に暑い夏で見ていて気の毒になるほどでしたが、よくしていただきまして本当にありがとうございました。瓦の色がよく上がっているとご近所でも好評です。
私も出来上がるのが楽しみで毎日下から見ておりましたが、瓦がまっすぐに葺いてあるのは本当にきれいだと感じました。お近くに来たときにはぜひお寄りください。出来上がり具合には満足しております。
担当者より
M様、今回は私たちに工事をお任せいただきありがとうございました。
今回の東日本大震災では棟が崩れた建物はありましたが、倒壊した建物は深谷市近郊ではほとんどなかったようです。
とはいえ、私たちも土葺きの場合は現代工法での工事をおすすめしております。特に土葺きで葺かれている建物はかなりの築年数が経過している場合がほとんどで、耐震面では要注意である場合が多いからです。
今回の工事では、できる限り不陸を調整して葺き替え工事をいたしました。「まっすぐ」と「平ら」は私たちが日ごろから心がけていることであり、雨漏りにも、耐久性の面からも一番大事なことであると考えております。
本当に暑い夏の時期の工事となりましたが、お茶等ふるまっていただき、本当にありがとうございました。感謝しております。
今回の葺き替え工事のポイント
お客様はこの様なご要望をお持ちでした
土葺きで瓦が葺いてあったことで地震に対する備えの面で懸念されていました
リフォームの経緯
- 東日本大震災の時に作業場の建物が非常に大きく揺れた。
- 昭和27年の葺き替え時には建設資材のひっ迫の影響で瓦を新しくできずに、古い瓦をそのまま使ったため、いまだに土葺きのまま。
- ご先祖様から受け継いだこの作業場を維持してゆくうえで、早めに葺き替えることで屋根を軽量化しておきたい。
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1作業場の屋根を軽くして耐震面での備えをしておきたい
様々な事情が重なって土葺きのままですが、今回は60年ぶりの葺き替えで屋根を軽量化することで、後世に建物を引き継いで行きたいとのご要望でした。
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2長持ちする屋根にしたい
今回葺き替えた作業場は蔵と並んで歴史のある建物。そこで後世に引き継ぐにあたって、今回の改修によって建物の耐久性を高めて引き継ぎたい、とのお考えでした。
葺き替えによって屋根の重量が約1/4に。古い建物の維持には屋根の軽量化も大事なことだと思います。
現代工法で使う葺き泥はわずかです
土葺き工法は関東大震災以前に主に採用されていた工法です。現代工法と違い瓦桟を用いないために泥だけで瓦を屋根に固定してゆきます。
従って、大量の葺き泥を使う必要があり、右の写真でも全ての列でオレンジ色の矢印方向に泥は隙間なくつなげて置かれてゆきます。
一方で現代工法では、瓦は瓦桟に固定することができるので、オレンジ色の丸の部分に瓦を安定させるために用いるだけです。
そのため、葺き泥の量だけで比較すると葺き替え前の1/40に軽くすることができます。
現代工法では使う瓦の枚数自体を減らすこともできます
現代の瓦と土葺きの瓦
土葺きで用いる瓦と現代工法で用いる瓦は大きさもかなり異なります。
土葺き工法で用いる瓦の方が小さいうえに、重なりも多いのでそれだけ単位面積当たりの重量が多くなります。そのため、瓦の重さだけで比較すると葺き替える前の7/10に軽くすることができます。
そして、葺き泥と瓦の重量をトータルで考えると屋根全体の重量が葺き替え前の1/4になります。(当社調べ)
下地材を全て交換。
長持ちする屋根にするために頑張りました。
野地板と垂木を全て交換しました
かなり間隔をあけて施工されていた野地板も今回は隙間なく施工しました。野地板については単価引き下げのために構造用合板を用いることが一般的になっていますが、接着剤で張り合わせている材料であるため耐久性の点で不安があります。
そこで今回は構造用合板よりも格段に耐久性が高い無垢材を使用しています。
垂木は長さが足りずに途中で継いであるものがありましたが、戦後復興期の物資が足りない中でも知恵を使って経済活動がなされていたことに感銘を受けました。私たちもこうした心を見習いたいものです。
風による被害も考慮して風切り丸も復元します
- 屋根の両端に2本ずつ引かれている風切り丸。防災上の観点からも効果があります。
- 切妻の屋根を妻側から見ています。色の濃いところでは強風時に吸い上げる力が働きます。
日本瓦の切妻屋根でよく目にする風切り丸。両端に2本ずつひかれていることが多いです。
この風切り丸があるのとないのでは、印象がかなり異なりますが、それ以外にも大きなメリットがあり、台風などの強風に対する抵抗力が格段に向上します。
右の図は強風時に切妻屋根のどの部分で吸い上げる力が働くかということを表しますが、屋根の両端。すなわち風切り丸を引いているところで発生していることがわかります。
つまり、風切り丸は対風圧対策にもなっているのです。先人の知恵に感服することが多い最近です。